”こどもたちとプロフェッショナルで魅力的な大人との感動の出会いを作り、体験を通してこどもたちが自分を見つめたり、自分の生き方を考える時間を作りたい”という思いのもと、2021年から開講している「こどもキャリア大学」。

第5期はフランスでパンと洋菓子のお店Maison Hirose(メゾンヒロセ)を創業した広瀬直人さんに講師を務めていただきました。広瀬直人さんはかけはし代表の廣瀬貴樹(愛称:もじゃくん)のお兄さん!久しぶりの再会に喜び合う二人は、息の合ったトークで会場を沸かせました。



フランスやパン作りのこと、こどもの頃の話などなんでも答えてくれた広瀬直人さん(写真右)

もじゃくんのお兄さんはフランス在住?

もじゃくんのお兄さんの広瀬直人さん(以下、直人さん)は、幼少期から食べるのが大好きで、小学校では二番目に体が大きく、料理に興味はなく、サッカーに熱中していました。

転機は大学在学中に近所のパティスリーでアルバイトをした3年間。直人さんは、お菓子作りの世界に魅了され、フランスで修行したいと、リュック一つで宿の予約もとらずにフランスに飛び立ちます。向かったフランス北東部アルザス地方のパティスリーは、フランスの伝統菓子「クロカンブッシュ(シュークリームをタワー状に積み上げたケーキ)」20台の注文に大忙しでした。お菓子作りの経験があるならすぐに手伝ってほしいと頼まれ、直人さんはシュークリームづくりを手伝うことに。泊まる場所まで用意してもらい、翌日朝の6時からそのパティスリーで働き始めました。

その後もパリなど数々の名店で研鑽を積み、パンづくりにもその繊細な技術を活かしていきます。2015年にはフランスのアンドルスハイムでブーランジェリー「Maison Hirose(メゾンヒロセ)」をオープンし、その後も各地に店舗を構えました。

Maison HiroseはフランスでTV番組に取り上げられました。フランス語のTV番組を流しながら直人さんが解説
Maison Hiroseのパンはすべての製品がオーガニック。シェフからの高い評価を受けて星付きレストランで提供されたり、給食としてこどもたちに安心でおいしいパンを提供したりしています。直人さんはフランスに移り住んで20年目になりました。


フランスってどんな国?

まず直人さんがフランスに行って驚いたのは、フランスに住む人々の自由な気質です。「ヨーロッパは陸続きなので、フランスにはいろんな人がいます。私は個性が強いと思っていましたが、海外に行ってみたらもっと個性が強い人だらけ。みんなはもじゃくんの髪の毛が特徴的で『もじゃくん』と呼んでいると思いますが、もじゃもじゃの髪の毛は特徴にはならない」と直人さんは話します。性格や考え方、見た目も、もっと個性的な人が多いのでしょうか。いろんな人が生活するフランスという風土だからこそ、直人さんはとても自然体で堂々として見えるのかもしれません。

フランスの食卓では、ケーキなどのデザートは夕食後に日常的に食べられ、パンは日本でいう“米”と同じ主食です。技術力を武器に勝負するケーキやパンは、日本で言うお寿司のような存在。日々の暮らしの中に職人の技が息づいています。

また、フランスには5週間のバカンスを取る義務があります。人々は家族との時間をたっぷり楽しみ、休み明けにはバカンスの話に花が咲くそうです。余暇の制度の違いが、生活スタイルの違いにつながっているのかもしれません。

Maison Hiroseのお菓子。気品が感じられます
直人さんは、日本人の真面目さから生まれる繊細さや丁寧さを活かし、フランスの伝統的なお菓子やパンをつくって現地の人々に受け入れられています。フランスには職人を敬う文化があり、職人として働いていると尊敬されるそうです。さらに、フランスには学校に通いながらパン職人を目指せる制度もあり、早いと14歳から見習いとして働き始めることもあるのだとか。そんなフランスの人々の心に根付く価値観に触れるお話を聞いているこどもたちの顔は真剣そのもの。一緒に顔を見合わせて、驚いている親子の様子も見られました。


なんの果物のジャム?

講座は中盤に差しかかり、楽しみにしていたフランスのジャムの味見の時間になりました。直人さんがフランスから持ち帰ってくれたMaison Hiroseのジャム。食べ比べながら、なんの果物かを当てるクイズがはじまりました。

クラッカーの上にたっぷりのジャムをのせて試食。見た目にも色鮮やかなジャムは、果物の味と香り、甘さ、なめらかな舌触りで、ほっぺたが落ちそうでした
食べ比べをしたジャムは、フランボワーズ(日本名は木苺)、ミラベル(日本にはない果物。少し酸味がありながらもとっても甘い、生でも食べられる)、かりん、クエッチ(日本にはないプルーンに似た果物)の4種類。それぞれのジャムを試食しながら、大人もこどもも「どんな果物のジャムなのか」一生懸命考えながら一口一口、味わって食べていました。直人さんから教えてもらったフランス流の手の挙げ方で、大人もこどもも、人差し指を掲げて、答えていました。

「Maison Hiroseではレシピを基準にその時の果物の状態に合わせて、糖度や煮込み時間を調節してジャムをつくっています。鮮やかな果物の色を美しく保つため、砂糖で煮込む際の火加減や時間に注意を払っています」と直人さん。砂糖の火入れを少しでも間違えると薄いキャラメル色になってしまい、鮮やかな色が損なわれてしまうそうです。

ジャムは自然の色でありながら、とても鮮やかです
直人さんのジャムづくりはフランスで出会ったパティシエから学んだ技術が活かされています。「あるパティシエと出会い、そのパティシエと同じくらいの情熱で私も仕事を好きになろうと思い、お菓子づくりを好きになる努力をしました。すると、思い通りにいかなくてつらい時も、大好きなお菓子やパンをつくり続けて、乗り越えていくことができました」直人さんは力強く語りました。

Maison Hiroseのパン作りを説明する直人さん。Maison Hiroseの商品は「ビオ」の認定を受けています。「ビオ」とはフランス政府が認定するオーガニックの厳しい基準。栽培方法だけではなく、ビオの商品とそれ以外の商品を同じオーブンで焼く場合はオーブンを洗う必要があるなど、基準がしっかりしています。ビオの商品以外は食べない人もいるほど、ビオはフランスで生活の一部として定着いるそう。直人さんはそんなお話もしてくれました

教えて直人さん!こどもの頃によく料理をしたんですか?

講座の後半は参加者からの質問タイム。こどもたちから手があがりました。
「どんな種類のパンが好きですか?」というある子の質問に、「朝はクロワッサン、夜はブレッツェル。ブレッツェルはしょっぱくてビールによく合うんです」と直人さんはうっとりと答えました。また別の子の「フランス人は朝昼晩の3食パンですか?」という質問には、「基本はパンです。日本のお米と同じ。スープに浸したり、チーズと一緒に食べたり、いろんな楽しみ方をしています。食の多様化は日本と同じようにあって、パスタ、じゃがいも、お米を主食にすることも増えてきています」と教えてくれました。

直人さんはフランスの小さなパンも準備してくれました。いろいろなスパイスが入った生地に、溶かした砂糖がかかったパンです。「かかっている砂糖はただの砂糖じゃない」と感じた子が直人さんに質問をしました。その子が感じた通り、この砂糖にはレモンのしぼり汁が入っていました
最後に手をあげてくれた子は「こどもの頃によく料理をしていたんですか?」と質問。とにかく食べるのが好きだった直人さんは、料理をしたことはほとんどありませんでした。どうやって料理をつくっているのか、だんだんと興味が湧いてきたそうです。

好きならつらくなっても乗り越えられる

「パンはレシピ通りにつくってもその人の色が出ます。その職人が捏ねた生地の中で微生物が動いてパンが膨らむ。発酵の温度によっても仕上がりが違うんです」パン作りの楽しさを語る直人さんは、目を輝かせながら、まるで好奇心いっぱいの探究者のようでした。直人さんがパティシエ・パン職人の仕事を楽しんでいる様子は、会話や会場で流した動画からも感じられ、“自分らしさ”や“人生の豊かさ”とは何かを、考えた方も多かったのではないかと思います。

講座の最後に直人さんは「好きなら、つらいことも乗り越えられる。だから好きなものをもっともっと好きになってほしい。いつか未来にパティシエやパン職人を目指す人がいたら、ぜひフランスに来てください。一緒につくりましょう」とこどもたちに熱いメッセージを伝えてくれました。あっという間だった1時間半のかけがえのない時間の中で、直人さんの言葉、生き様、夢、そして絶え間ない情熱が、こどもたちや大人の心の中に、じんわりと伝わっていくことを感じました。

来日して日本全国を飛び回り、横浜での滞在は3日間という過密スケジュールの中、こどもたちのために心が熱くなる講座を開催してくださった広瀬直人さん、本当にありがとうございました。こどもたちと保護者が同じ体験をしたことで、お互いに感想を伝えあったり、理解しあえたり、楽しみながら学びへとつながったのではないかと思います。

第5回こどもキャリア大学は『横浜銀行』様の協賛で開催することができました。横浜銀行様より、参加賞として貯金箱やファイル、ノートをいただきました。横浜銀行様、本当にありがとうございました。
そして、昨年度に引き続き、素敵な会場「Live Kitchen SORATOS」を提供してくださった相鉄ビルマネジメント様に心から感謝しています。本当にありがとうございました
久しぶりの再会で楽しそうな二人の様子。直人さん、本当にありがとうございました!
写真・文=松本 裕美枝(かけはしライター)