”こどもたちとプロフェッショナルで魅力的な大人との感動の出会いを作り、体験を通してこどもたちが自分を見つめたり、自分の生き方を考える時間を作りたい”という思いのもと、2021年から開講している「こどもキャリア大学」。

第4期は弥生台にお店を構えるフランス料理の名店「ペタル ドゥ サクラ」のオーナーシェフ、難波秀行さんに講師を務めていただきました。講座は満員、15組の親子にご参加いただきました。当日の様子をご紹介します。


鶏をさばく難波シェフ。こどもたちも保護者も、無駄のない美しい動きから目が離せません


プロの技を間近で

会場は7月にオープンしたゆめが丘ソラトスのLive Kitchen SORATOS。難波シェフは、「本格的なフランス料理の調理技術を見てほしい、本物のフランス料理を味わってほしい」と、『鶏肉とフォアグラのパイ包み〜赤ワインとトリュフを使ったソース〜』を目の前で調理してくれました。

ペタル ドゥ サクラのキッチンから、難波綾シェフ(中央)、中島シェフ(左)がお越しくださいました
まずはソース作り。初めて聞くお酒や調味料がつぎつぎと小鍋に足されました。「鍋から蒸発しているアルコールに火をつけてみましょう。鍋肌が焦げてソースに少し苦みが出てしまうので、いつもは火をつけないのですが、デモンストレーションとして今日はお見せします。もう少し下がってください」火を近づけると、頭上の換気扇に届く程の大きな炎がたち、こどもも大人も驚きの声をあげました
ソースを火にかけながら、きのこをソテーし、次に出てきたのは、丸ごと一羽の鶏。「この鶏は卵をたくさん産んだ母鶏で肉に少し硬さがあります。胸肉やモモ肉はスーパーで見るものより少し小さい。でもこれが自然の姿」胸、ささみ、手羽、モモなど難波シェフは説明を加えながらつぎつぎとさばいていきます。シェフの包丁さばきを見ようとまな板の前にはこどもたちが並び、シェフが移動してミンチ肉にする機械を使うと、シェフに続いてこどもたちが機械の前に移動し、時にはジャンプをして調理を見ている子もいました。

難波シェフがボウルを取り出すと、サッと布巾をボウルの下に敷く難波綾シェフ。難波シェフの動きを見ながら次の工程の準備をする中島シェフ。3人の流れるようなチームワークを見たある子は「すごい人の隣には優秀な助手がいる」と感動を伝えてくれました。


シェフが鶏をさばく様子からは、食材を尊ぶ気持ちが感じられました
ミンチにした肉を練って、具材を足していきます
難波シェフは調理をしながら、食材の扱い方や調理のポイントを教えてくれました。ミンチ肉にはまず塩を加えて練って粘りをだすこと、パン粉は肉汁を吸って旨味を閉じ込めてくれること、パイと肉だねの間にアーモンドパウダーを敷いてパイ生地をサクッと仕上げること、など。保護者もこどもと一緒にキッチンの様子をじっと見つめ、メモを取る方もいました。


私のパイ包み

調理のデモンストレーションが終わると、各々のテーブルにパイ包みが置かれました。パイ包みに好きなデコレーションをし、自分だけのパイ包みにします。

まずは卵黄を塗っていきます。竹串、型押し、ナイフを使ってパイ生地を飾っていきます。時間を忘れて熱中している子がたくさんいました
キッチンに運ばれてきたこどもたちの作品を見て、思わず笑みがこぼれた難波シェフ
パイの焼け具合を見にきた親子で、オーブンの前には列ができました
焼けたパイを受け取る最高の瞬間。とっても綺麗な色に焼きあがりました
親子でいただきます。トリュフを使ったソースのお味も気になります
トリュフのソースは難波シェフ自ら客席にサービス。シェフの「ボナペティ(召し上がれ)」の言葉に「メルシー(ありがとう)」と答えて試食をはじめました。

添えられたバケットばかりを食べていた子がパイを少しずつ口に入れ、最後は「なんだこれ?めっちゃ美味しい!」とほおばっている姿や、きのこが嫌いな子がきのこが入っているのを知りながらパイを食べる姿は、とても印象的でした。


答えきれないほどたくさん!シェフへの質問

講座の後半はシェフへの質問コーナー。各グループで質問を出して、難波シェフに答えてもらいました。難波シェフの好きな食べ物がラーメンであったり、自宅では料理はせずに片付け担当だったりと、意外な一面を知ることができました。

「初めて料理をしたのはいつですか?」という質問からは、難波シェフがこどもだった頃の話を聞くことができました。こどもの頃の難波シェフは、兄妹の取り決めで家族の夕飯を作る日があり、週一回は料理を作っていたそうです。料理が好きではなく「正直面倒くさいと思っていた」と難波シェフ。鍋にカレーの材料をすべて入れて、煮込む間にふて寝したことも。でも、その時に作ったカレーが美味しくて印象に残っていると話してくれました。

ペタル ドゥ サクラの3人の出会いについてのお話もありました
祖父母が大好きな難波少年(18歳)は、祖父母が創業し両親が受け継ぎ、そして当時50年近く続いていた喫茶店「さくら喫茶」を残したいと考えるようになり、コーヒーの淹れ方の勉強をスタート。2代目の父の言葉「コーヒーだけじゃ食っていけないぞ」をきっかけにデザートを勉強し、その後も軽食、ホテルでの調理とその世界をだんだんと広げ、本場フランスでも修業をしました。料理の世界は厳しく、殴られた経験もあったと話してくれた難波シェフ。「それでも目の前にやるべきことがあったので、続けてこられました。今の自分になれた要因のひとつに”あきめなかったこと”があると思います」と語ってくれました。

「今後叶えたい夢がありますか?」という質問には「ミシュランの星がとりたい」と明確な目標を教えてくれました。「この目標はいろいろな場面で口にしています」と難波シェフ。言葉に出すことで気持ちを引き締め、また、話すことで、思わぬところで周りの方が目標への道筋を示してくれることもあるそうです。

たくさんの質問にお答えいただきました!ホワイトボードには書ききれず、紙に難波シェフの言葉を書き、掲示しました
講座の後、ペタル ドゥ サクラのみなさんは「こどもたちのパイの飾り付けを見て、創造する力の豊かさを感じ、とても勉強になった」「こどもたちのきらきらした視線を感じ、私自身も楽しんで講座を進めることができた」「料理人としてお役に立てたなら、本当によかった」と口々に話してくださいました。

ペタル ドゥ サクラのみなさま。本物に触れる機会、貴重な体験を本当にありがとうございました。当日までの打ち合わせ、食材準備やパイの事前準備等、たくさんの時間を割いてこの講座を作り上げてくださいました。重ねてお礼申し上げます。

また、参加してくださったお子さまと保護者の方も、長時間にわたりありがとうございました。
「来年もぜひこのような機会を」という声をいただいています。また、来年もみなさんにお会いできますように!

写真・文=松本 裕美枝(かけはしライター)、写真=廣瀬 千尋